
韓国の経常日報(1989年5月15日創刊の蔚山初の日刊紙)ウェブ版で6月25日、 蔚山大学校の名誉教授・音楽理論家のユン・ボムサン氏が職業にまつわる興味深い考察を記事にしました。
【ユン・ボムサンの世事雜談】
建物を造る人より、建物を所有する人(大家)になりたい?
ピアノを始めて10年が過ぎた。いくらあがいても実力が伸びない。ピアノの上手な人がうらやましくてしょうがない。そこでレッスンの先生に聞いてみた。
「先生はどれくらいピアノが好きなのですか?どのように練習すればそんなに上手く弾けるのですか?」
彼女の答えは、
「私は幼い頃に始めましたし、中学~高校の時は毎日10時間ぐらい弾いていたと思います。うまく弾けない楽譜の2、3フレーズに集中して何日間も練習したこともありました。今でも公演前は緊張してよく眠れません。専攻教授や世界的なビアニストを除けば、経済的にも楽ではありません。先生はピアニストになれなくて本当に良かったですよ。むしろ、教授のあなたがうらやましい。教授という職業は給料も少なくはなく、一年に二回大型休暇もあるし、干渉されないし、尊敬されるし、服代も飲み代もあまりかからないし、年金もあるし最高の職業ですよ」
と言うのです。
確かにいい職業だ。何よりも研究室で一人暮らしをすることに慣れていて、定年後は出会いも減り、小部屋に閉じこもっていても寂しさを感じない長所もある。生徒たちに教えることだけすれば確かにそうだ。
しかし、教授のもう一つの責務である研究、まさにこれが私を苦しめる。春と秋の学会シーズンが近づくと食欲がなくなる。何か新たに研究した内容を発表しなければ、「勉強しない教授」という烙印を押され、研究費が入らない、大学院生が来ない、昇進と再任用にも赤信号が灯る。したがって教授たちは一生憂鬱で、心が痛む。
おそらく小・中・高校の教師も毎日苦労しているだろう。研究の負担は少ないが、学生の生活指導が半端ではないからだ。教育者・研究者になるのも容易でないばかりか、なるのも大変なのはピアニストも同じだ。「先生の糞は犬も食べない」と言われる所以だ。
だったら医者? 弁護士?死に物狂いの徹夜勉強をして、やっと資格を取れば30代半ばだ。 新種の病気や法改正は次々にあり、依頼人と患者はどんどん詳しくなっていき、ちっとも勉強を怠れない。毎日、病気の人、つらい人、死にかけている人に会わなければならず、歯科医は一日中口臭を嗅がなければならない。
手が震えれば手術もできない。結果が良くなければ、悪口も言われ責任を問われることもある。しかも、最近は病院経営もままならず、弁護士の収入も低いという。
つぶやき・・・「あぁ、これらでもない」
果してどんな職業が儲かって幸せなのだろうか。いつも笑みを浮かべながら楽しそうに軽く歩くバレリーナの話を聞いてみた。舞台の姿のように魅力ある職業に違いない。動作と表情だけで全てを表現しなければならないので困難はあるだろう。けれども、心の中に渦巻いているストレスを吐き出す歓喜はあるだろう。
バレリーナの回答は、
「韓国有名バレリーナのカン・スジンの足を見ましたか?足を高く上げたまま空中に長く留まって着地し、一瞬もバランスを崩してはならない。耐え難い動作を完璧に維持したときに感じる苦痛は死に値します。どんな分野の人も感じた感情を顔に表現できます。歌手が悲しい歌を歌う時は悲しい顔を、重量挙げ選手がバーベルを持ち上げる時は食いしばった苦しい表情を作れます。しかしバレリーナは、苦しい場面でも笑わなければなりません。それに裕福な生活への期待は、早々とあきらめるのです」
つぶやき・・・「あぁ、これも違うのか」
そして建物の所有者である友人に会った。大家が生涯の夢という若者が少なくない。何もしないで、ただ毎月入ってくる家賃だけ受けとればいいと思うからだ。果たしてそうだろうか?
「銀行から融資を受けてマンションを建てたのに、景気が悪いといって入居者の部屋が空っぽになり、残っている人たちも家賃を安くしてくれ!と騒いでいて、税金・管理人の人件費はどんどん上がるし、最近は預金にほとんど利子もつかない。それに冷暖房、水道、トイレはなぜこんなに故障が多くて、上階の騒音に苦情が多いのか。建物の減価償却への備え?そんなの夢物語ですよ。サラリーマンが最高ですよ。
つぶやき・・・ 「えっ!サラリーマンが?」
婚期を迎えた人たちが最も好む配偶者の職業を見れば、少し整理がつきそうだ。 記憶をたどってみると、朝鮮戦争後は銀行員、産業化時代にはエンジニア、そして事業家、その後は在米韓国人、世紀末には士師、最近では芸能人、プロスポーツ選手、大家、公務員と公的企業の会社員などに変わった。
収入が多いか、安定するかでわかれる。 たとえどんなに調べてみても簡単にお金や幸福をもたらす仕事はこの世になく、自分の仕事が一番たいへんだということ以外に正解はなさそうだ。
(ksilbo.co.kr)
面白い記事をありがとうございました!
理想の職業は永遠のテーマですね。すっかり安定しきったらその瞬間、退屈になってしまうというのが人間の性(さが)なのかもしれませんね。
フレンチブルコさん、含蓄あるコメントありがとうございます。
どんな職業が優雅で幸せなのか?
ーー正解はなさそうだ、というのに救われました。
羨ましい職業というのはいろいろとあり、なんで自分はもっと……、などと詮ないことを考えてしまいがちな当方ですが、たしかになってみればどの職業どの立場もたいへんそうであります。
興味深い記事でした。
ぼつりさん、ありがとうございます。押し込まれるのではなく、マイペースでできる仕事が理想ですね。